今年も夏がやって来ました。そしていつの間にもうお盆を迎えます。
この季節になると、我が家での過ぎ去った出来事を思い出すことがあります。
20年近くも前のことです。私にとっては、つい数年前のことのように感じていますが現在暮らしている、この家を建てた頃のことです。札幌でも郊外であり、当時は今よりもずっと自然が残っていました。家のすぐ近くには小川が流れており、ザリガニが住んでいましたし、蝉も多くおり、夜 電信柱の下を見にいくと、クワガタ虫を見付けることもありました。小学校低学年の息子は虫が大好きで、今はもう亡くなった父や私と、懐中電灯を手に、よく一緒に虫捕りに町内を一周したりしたものです。我が家だけではなく、ご近所の方々にもザリガニ捕り、虫捕りで出会うことがありました。家のカーテンに蝉やその幼虫をつけ、ゆっくりと登っていく姿を、息子は観察したりしていた時もあります。また蟻地獄を捕まえてきて、どんな姿で砂の中に潜っていくのか、教えてくれることもありました。砂をきれいに摺り鉢状にしたり、蟻を捕まえる様子に、私までもわくわくした驚きを感じたりしていました。
その頃 夫は月に数回車で釧路の方へ出張をしていました。出張の帰りはいつも夜遅い時間です。峠を越えて山道を走る途中、夫は息子にと、クワガタ虫を毎年採ってきてくれました。『売るほどある』とはこういうことを言うのだ、と思うほどの数です。
車もめったに通らない、しかしきれいに舗装された山の中の、電灯の下だけが明るく、その下で黙々と息子の為に虫を捕る姿が、目に浮かびます。たまたまその場を車で通った人が、突然として、その姿を目にした時のことを想像すると、思わずニヤッとしてしまいます。
ある時は、いつものとおり夜帰宅した夫が、なかなか車から離れず、なにやらゴソゴソやっているので迎えに行くと、ビニール袋に入れたクワガタ虫が、袋を破って逃げ出したと、車の中を探していることもありました。
息子は喜んで虫を飼っていました。
そのような夏が毎年繰り返され、息子が中学生になった夏のことでした。「もうクワガタは良いから・・・」と夫は息子に告げられました。
夫も息子も、虫を卒業しました。
住んでいる地域は、住宅も建て混んで、当時子育て真っ最中の私達親の世代も、定年を迎え始めています。七夕の子供会の行事に集まる幼い子達は、随分と少なくなりました。ザリガニはずっと以前に姿を消したことでしょう。遅くに慌ただしくやって来た夏に、蝉の声が少しだけ聞こえてきました。
その息子は今30才。 女の子2人のお父さんです。
平成21年8月8日筆