人と人の間に生ずる何か
猛暑が続いた日々が一段落した日の午後、愛犬の散歩に夫と出かけました。外でなければ用を足さない犬なので、毎日毎日お天気の状況をみながら出かけます。マンションを出てすぐ小学校中学年ほどの男の子が、グリーン色をした虫かごを両手で抱える様に持って、こちらの方にやって来ました。知らない子でしたが、「何か虫が採れたの」と声をかけると、「朝学校に行く時にそこでクワガタを捕まえたんだ。飛んできたんだと思う。」と言いながらかごを差し出し、見せてくれました。布に隠れていて見えませんでしたけれど、クワガタを見る以上に心が動くひと時でした。一瞬であっても、年代関係なく、何のてらいもなく他の一人の人と言葉を交わし、心を通わせた感覚をはっきりと実感しました。クワガタを通して関係の中に生み出された『何か』。他者との関係がなければ、出会い、味わうことができなかった私自身の『何か』。とても大切な得難い心の在り様に想います。はっきりと意識されたその感覚はその後しばらくの間、幸せな満たされた想いにさせてくれました。
その後散歩を50分程続けたでしょうか。その途中ふと思い出したことがありました。
40年も前の出来事です。道東方面に度々出張していた夫は、帰りにクワガタを息子のために何匹も取って来てくれました。帰宅したのに、なかなか家に入って来ない時がありました。行ってみると、車の中で何かを探しています。クワガタが袋を破り逃げ出していたのです。
車がたまに通るだけの山道の電灯の下で、黙々とクワガタ採りをする夫の姿が目に見えるようです。息子の喜ぶ姿を思い浮かべながら、それと同時に、喜々として夢中になりながら虫取りをする子供心を味わっていたのだろうと思います。
息子が6年生になった夏のこと「もうクワガタは良いから」と言うまでそれは続きました。
(若) 令和6年7月27日 筆